前回のコラムでは、認知症高齢者の徘徊に関してお話いたしました。
皆さんも自身の両親・祖父母が高齢となり、地域包括ケアや見守りなどを検討している方も多いのではないでしょうか。
私も父が高齢となり地域のケアマネージャーや自治体の窓口に介護認定の取得・見守り方法などを相談したことをきっかけに、これまで触れることのなかったIoT・ICTの貢献について実体験しました。
また、展示会の会場でもウェアラブルデバイス(スマートバンド・リング)をヘルスケア・介護業界に使いたいというお声を多くいただきますので、介護のIoT活用についてご紹介します。
介護を取り巻く状況
日本の高齢化が進む中、高齢者増加による介護業界への影響は計り知れません。特に、75歳以上の高齢者の割合が増加していること(2022年で15.5%、2040年には推測で20.2%に達するとされています※1)は、介護サービスへの需要の拡大を意味しています。この高齢化問題は、介護施設や在宅介護サービスのさらなる充実の必要性や、介護職員の確保という課題をより一層際立たせています。
高齢者人口の増加に伴い、介護サービスを提供する従事者にとって、人手不足は大きな課題です。介護労働実態調査※2によれば、介護サービス従事者の63.0%が人手不足(大いに不足、不足、やや不足)を感じていると回答しており、特に訪問看護では80.6%、介護職員では64.4%という、平均を上回る数字が報告されています。
※1:総務省統計局、1.高齢者の人口、https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1321.html、2024年2月26日
※2:公益財団法人 介護労働安定センター、令和3年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査 結果報告書、https://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/2022r01_chousa_jigyousho_kekka.pdf、2024年2月26日
厚生労働省の介護事業におけるICT推進
厚生労働省は、ICTの導入による介護サービス事業所の作業効率の向上を目指し、職員の業務負荷を軽減することを推進しています。この取り組みの一環として、地域医療介護総合確保基金を活用し、記録、情報共有、請求といった業務をスムーズに一元管理できる介護用ソフトウェアやタブレット端末の導入支援を行っています。※3
ICT機器の導入や利用における主な課題として、「導入コストが高い」が57.1%で最も多く、次に「技術的に使いこなせるか心配である」、「どの介護ロボットやICT機器・介護ソフトがあるかわからない」、「投資に見合う効果がない」と続いています。
しかし、「課題・問題は特にない」と回答した割合は9.7%です。介護保険サービスの型別では、すべての区分で「導入コストが高い」が最も多く、施設系(入所型)・居住系の介護支援では技術的な使いこなしに対する心配が相対的に高い傾向があり、居宅介護支援では「課題・問題は特にない」が21.0%と他より高い割合を示しています。※4
※3:厚生労働省、介護現場におけるICTの利用促進、https://www.mhlw.go.jp/stf/kaigo-ict.html、2024年2月26日
※4:公益財団法人 介護労働安定センター、令和3年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査 結果報告書、https://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/2022r01_chousa_jigyousho_kekka.pdf、2024年2月26日
IoTによる解決
IoTデバイスには、GPSやビーコンにより人の位置を特定できるものや、心拍数・血中酸素飽和度・体温などのバイタルデータを測定するウェアラブルデバイスが含まれます。
GPSトラッカーやウェアラブルデバイスは、利用者の安全を確保し、必要時に迅速な駆けつけ・措置を可能とします。自動で収集されるバイタルデータは、見守る側(介護施設など)のシステムで一元管理され、介護者は利用者の健康状態を継続的に可視化することが出来ます。
これにより、アナログで計測して、紙で管理・PCに打ち込むなどの介護者の業務負担が軽減され、より効率的なケアが提供できるようになります。
また、訪問診療では、事前に患者さんの状態把握ができるため、より効率的なケア・必要な方への優先順位付けなどができるようになります。
見守りのためのGPSトラッカーやビーコンを活用したサービスには、介護保険認定を受けているサービスもあります。認定を受けたサービスを活用することで多くの介護者や入居者に導入コストを抑えて見守りサービスを受けることが可能となります。
フィンランドにおけるDX介護事例
フィンランドにおける在宅介護の取り組みについてご紹介いたします。
フィンランドではHyteAiroというプログラムが介護にAIやロボティクスを活用する枠組みとして導入されています。
HyteAiroの重点分野は在宅ケア、病院のロジスティクス改善、医薬品サービス、ウェルビーイング指導&リハビリの4つです。
重点分野の在宅ケアの中では、高齢者が自宅で自立した生活を送るためのテクノロジーとして、5つのカテゴリー(アプリケーションとサービス、測定・モニタリング、自動化・ロボット、リハビリ・補助機器、ホームシステム)を設定しており、これらのテクノロジーは、介護サービス提供側が様々な情報システムと統合することを目指しています。
この背景には、地方自治体がどのテクノロジーを利用できるかという意思決定をサポートするという目的があり、各地でパイロット事業とそのインパクト評価の実施を今後の取り組みとして想定しています。
フィンランドでは、デジタルテクノロジーを介護に活用するための包括的な枠組みが整備され、介護サービスの向上と高齢者の自立支援に取り組んでいます。※5
日本では、ICTの利用促進として、上図KATIフレームワークの「アプリケーションとサービス」が少しずつ浸透してきています。
今後は5つのテクノロジー活用が在宅でも進むと考えており、特に「測定・モニタリング」の観点から弊社IoTBankでは各種データの取得に貢献ができると考えています。
※5:株式会社日本経済研究所、ロボット介護機器開発・標準化事業に係る海外調査、https://robotcare.jp/data/outcomes/2020/09.pdf、2024年2月27日
最後に
本コラムでは、介護におけるIoT/ICT活用についてご紹介いたしました。
ウェアラブル(スマートバンド・リング)をヘルスケア・介護領域の展示会に出展したところ多くの反響をいただきました。
人手不足の解消業務効率化などヘルスケア・介護業界にはIoT/ICTで解決できる課題があると感じております。今後も案件の事例などご紹介してまいります。